中山君の戒め

仏教説話

中山君の戒め

中山君(ちゅうざんくん)は都にいる士大夫(しだいふ)を饗応した。この時、司馬子期も、そのもてなしにあずかったが、羊のあつものが自分のところまでいきわたらずに不足した。司馬子期は怒って楚に走り、楚王を説得して主君の中山君を討つ兵を出させた。

 中山君はどうにか逃れて戈(ほこ)をひっさげて歩いていると、その後からついてくる二人の男がいた。後を振り向いて二人に、

「君達は何者だ」

と聞くと、男達は、

「私どもの父が前に飢えて死にかけた時、我が君は水かけ飯(めし)を与えて救って下さいました。私どもの父はそれを恩に感じて死に際に、『中山に戦いがあったならば、おまえ達は中山のために命を捨てるのだ』と申されておりましたので、今こうして我が君のために命を捨てにやってきました」

と答えた。

 中山君は「ああ」と嘆息して天を仰ぎ

「人に物を施す場合、多いとか少ないとかは問題ではない。その人が困っている時に施すのが良いのだ。人の恨みを受けるのは深いも浅いもない。その心を傷つけることにおいて恨みをつくるのだ。私は一杯の羊のあつもののために国を滅ぼし、わずかな粗末な食で二人の士を得た」

と言った。

 これは 『戦国策』に説かれている。こころしたい故事である。

(歴代法主全書八巻)

(高橋粛道)