優婆塞が虫と生まれる

仏教説話

優婆塞が虫と生まれる

天竺(インド)に仏教を信じる優婆塞がいて五戒を持ち、精進して善根を積んでいたが、病に倒れ自分自身非常に困惑していた。妻も看病しつつ「わが夫がもし亡くなったら私はこの先どうして生きていったらいいだろか、子供も少しも私の支えにならないし」と悲嘆にくれていた。夫も「われが死んだら妻はどうなるのだろうか、一人で元気に生きていけるだろうか」と妻への執着心が残った。命がまさに尽きんとした時、この妄念により夫は死して妻の鼻の中に虫として生まれた。婦人は死を悼んで哭きやまなかった。

 時に聖者がいて彼の家の前を通りかかり、ふと婦人を見ると虫が鼻より出た。婦人は虫をつまんで捨てて踏み殺そうとすると聖者は制して「その虫は汝が亡ぜる夫である。殺すなかれ」と言った。妻は「そんなはずはありません。私の夫は仏教を信じ持戒し善根を積んでいたのです。どうしてこれが夫だというのですか」と。すると聖者は女を諭し「日頃の持戒の徳からして天に生まれるべきであるが、最後の臨終に妄念が強く現れたために畜類に生まれたのだ」と説明した。

 そして聖者は虫のために説法してあげたら虫は命終して天に生まれたのである。

 これは経律異相に説かれていて、日寛上人は臨終に執着を断つことを教えられたのである。

(歴代法主全書八巻)

(高橋府道)