法華経について(全34)
16大白法 平成27年5月1日刊(第908号)より転載
『提婆達多品第十二』
今回学ぶ『提婆達品第十二』は、三逆五逆の罪を犯し、現身に地獄に堕ちた提婆達多が未来の成仏を仏の知見をもって約束された「悪人成仏」と、畜生身の竜女が文殊師利菩薩の妙法の化導を受けて菩提心を発し、男子と即座に変じて成仏の相を示した「竜女成仏」が説かれています。
これらは前品の『見宝塔品第十一』で説かれた「三箇の勅宣」に引き続き、「二箇の諌暁」として法華経受持信行による即身成仏の大功徳が顕わされ、また妙法弘通を勧めていくための流通分として示されたものです。
提婆達多は釈尊の従弟に当たり、釈尊に従って出家しましたが嫉妬我儘の心があり、大衆を誘惑して新教団を作り、阿闍世王と共に釈尊に敵対して種々の危害、三逆罪(出仏身血、殺阿羅漢、破和合僧)を犯しました。その結果、ついに提婆達多は生きなからにして地獄に堕ちたのです。
当品の前半部分では、この提婆達多と釈尊の過去世における師弟の因縁が説かれて、提婆達多に未来成仏の記別が与えられ、法華経の功徳を証明されます。
逆即是順の成仏
釈尊は、初めに御自身の遠い過去世のことを、次のように説かれました。
「私は、遥かな過去世、法華経を求めて少しも怠ることはなかった。国王の身分であったが、大法を得るためにすべての地位名誉を投げ捨て志念堅固に仏道を求めていた。すると、阿私という名の仙人が訪れて『私は大乗の教えを持っています。それは妙法蓮華経という御経です。私に違わずに修行するならばお教えしましょう』と申し述べた。王であった私は、この言葉を聞いて躍り上がって喜び、すぐさま仙人に従って給仕し、木の実を取り、水を汲み、薪を拾って食事の支度をし、我が身を横たえて座とし、少しも怠る心がなかった。このように長い間、努めて法を求めたのである。
実はこの王こそが、私・釈迦牟尼の過去世の姿であり、阿私仙人とは今の提婆達多である。提婆達多という善知識がいたからこそ、私は法華経を修行して仏となり、人々を救うことができたのである。現在、阿鼻地獄で無量の苦悩に苛まれている極悪人の提婆達多ではあるが、このような深い法華経の因縁により、これより無量劫もの時を経た未来に、提婆達多は天王如来という仏に成るであろう。そして、多くの人々のために妙法を説いて悟りに導くであろう」
過去には阿私仙人としての尊い善業こそあれ、今世の提婆達多は悪逆非道を犯して阿鼻地獄へと堕ちた大悪人です。しかし、悪逆の業因を改めることなく、妙法一念三千の理に順じて、そのまま成仏の真因と転換し、天王如来の記別を与えられたのです。この法華経の悪人成仏を逆即是順といいます。
こうしたところから、次いで釈尊は、
「未来の世に、善良な男女がいて、この法華経の提婆達多の教えを聞いて清らかな心で信仰して疑いを起こさない者は、地獄・餓鬼・畜生といった悪道に堕ちることなく、十方三世の仏のもとに生まれるであろう。もし人間や天上に生まれれば、すばらしい楽しみを受けるであろうし、その仏の御前であれば、蓮華に化生することであろう」
と法華経を浄心に信敬していくなら、必ず勝妙の果報に至ることを明かされています。
竜女の即身成仏
後半では竜女成仏が説かれます。
提婆達多への授記が終わると、多宝如来の侍者・智積菩薩が本土(宝浄世界)に帰ることを要請します。釈尊は智積菩薩に「文殊師利菩薩と妙法について対談してから帰りなさい」と告げました。すると、文殊師利菩薩が大海の竜宮から来訪したのです。
智積菩薩が「あなたは竜宮で、どれほどの衆生を教化したのか」と尋ねると、文殊菩薩は「それは無量であり、計ることはできない。ただ、私はもっぱら妙法を説いて化導してきた」と述べ、さらに「竜王の娘である八歳の竜女は、法華経を聞いて即座に悟りを得た」と語りました。しかし、別教に執着する智積菩薩は、それを信じられませんでした。
この時、竜女が忽然として釈尊の前に身を現わしたのです。これを見た舎利弗は、また、「女人は宝器ではなく、また梵天王、帝釈、魔王、転輪聖王、仏身にはなれない」との五障を挙げて、その悟りを信じません。
すると、竜女は三千大千世界ほどの高価な宝珠(竜の珠)を釈尊に奉り、釈尊もすぐさまそれを受け取られました。そして竜女は智積菩薩と舎利弗に向かい「私は釈尊に宝珠を捧げ、釈尊が受け取られた。この出来事はどれほどの時間でしたか」と問いました。二人は「ただ一瞬の出来事だった」と答えました。
竜女は「それでは、よく私の成仏を見なさい、この出来事よりも速いでしょうから」と言うと、目前でたちまち男性に変わり(変成男子)、南方の無垢世界で宝蓮華に座して成仏し、衆生のために妙法を説く姿を示したのです。
即身成仏の現証を目の当たりにした大衆は、大いに喜んで遥かに礼拝し、無量の衆生が不退の境地に達し、また成仏の記別を受けました。智積菩薩・舎利弗と疑いを持った人たちも、ただただ静かに信受するばかりでした。
大聖人様は『開目抄』に、
「竜女が成仏、此一人にはあらず、一切の女人の成仏をあらわす。法華経已前の諸の小乗経には、女人の成仏をゆるさず。諸の大乗経には、成仏往生をゆるすやうなれども、或は改転の成仏にして、一念三千の成仏にあらざれば、有名無実の成仏往生なり」(御書 五六三㌻)
と、この竜女の成仏は、一切の女人が法華経によって成仏することの証であることを示されました。そして爾前権経のうち、権大乗経でも、一往は女人の成仏往生は許されるようではあるが、それは「改転の成仏」であって、一念三千の成仏ではないと仰せになられています。
この改転の成仏とは、即身成仏に対する言葉で、女人は男子に生まれ変わり、それから成仏するということです。つまり爾前経においては、女人は罪障が深いものとされていたので、種々の善根を積み、いったん男に生まれ変わってから成仏するという、有名無実の成仏であると説かれているのです。
それに対し、法華経は、女人は女人のまま、悪人は悪人のまま、二乗は二乗のまま、十界のすべての衆生が即身成仏するという、一念三千の成仏の教えであると明かされています。
しかしながら、なぜ竜女が男性に変わって、成仏の相を現わしたかというと、それは釈尊の熟益・脱益の化導として、女人不成仏や歴劫修行に執着していた智積菩薩・舎利弗等の疑念を晴らすための方便化他の相なのです。
下種の成仏の相から拝すると、竜女が宝珠を釈尊に奉り、釈尊がそれを受けられたときには、すでに竜女は妙法による正覚を得ており、改転の成仏を経ずして蛇身・女身のままに即身成仏(内証成仏)しているという意義があります。
浄心信敬の修行
御法主日如上人猊下は、
「法華経の提婆達多品には、
『未来世の中に、若し善男子、善女人有って、妙法華経の提婆達多品を聞いて、浄心に信敬して、疑惑を生ぜざらん者は、地獄、餓鬼、畜生に堕ちずして、十方の仏前に生ぜん』(法華経 三六一㌻)
とあります。
私達はいかなる障魔に出遭うとも、ただ大御本尊様への絶対信を持って、疑念なく、浄心に信敬して、強盛なる自行化他の信心に励んでいくならば、御金言の如く、いかなる困難も、立ちはだかる障礙も必ず乗りきっていくことができるのであります」(大白法 七六一号)
と仰せです。末法における即身成仏の大法は、事の一念三千の当体である南無妙法蓮華経の大御本尊様です。
この大御本尊様に対し奉り、疑念なく清浄な心で自行化他に邁進するならば、どのような罪障をも消滅し、即身成仏の大果報が得られることを御指南くだされています。さあ、皆さん。御法主上人猊下の御指南を根本に平成三十三年の御命題に向けて浄心信敬して折伏に勇躍出陣してまいりましょう。