止観第五の事 (上野殿母尼御前御返事)
母尼ごぜんにはことに法華経の御信心のふかくましまし候なる事、悦び候と申させ給び候へ。止観第五の事、正月一日辰の時此をよみはじめ候。明年は世間怱々なるべきよし皆人申すあひだ、一向後生のために十五日まで止観を談ぜんとして候が、文あまた候はず候、御計らひ候べきか。
白米一斗御志申しつくしがたう候。鎌倉は世間かつして候、僧はあまたをはします、過去の餓鬼道の苦をばつぐのわせ候ひぬるか。
法門の事、日本国に人ごとに信ぜさせんと願して候ひしが、願や成熟せんとし候らん。当時は蒙古の勘文によりて世間やわらぎて候なり、子細ありぬと見へ候。本より信じたる人々はことに悦ぶげに候か。恐々謹言。
十二月二十二日 日 蓮 花押