妙心尼御前御返事 建治元年八月廿五日 五四歳
すゞの御志送り給び候ひ了んぬ。 をさなき人の御ために御まぼりさづけまいらせ候。この御まぼりは、法華経のうちのかんじん、一切経のげんもくにて候。たとへば、天には日月、地には大王、人には心、たからの中には如意宝珠のたま、いえにははしらのやうなる事にて候。 このまんだらを身にたもちぬれば、王を武士のまぼるがごとく、子ををやのあいするがごとく、いをの水をたのむがごとく、草木のあめをねがうがごとく、とりの木をたのむがごとく、一切の仏神等のあつまりまぼり、昼夜にかげのごとくまぼらせ給ふ法にて候。よくよく御信用あるべし。あなかしこ、あなかしこ。恐々謹言。 八月二十五日 日 蓮 花押 妙心尼御前御返事