宿屋入道再御状 文永 五年 九月 四七歳
去ぬる八月の比、愚札を進ぜしむるの後、今月に至るも是非に付け返報を給はらず、欝念散じ難し。怱々の故に想亡せしむるか。軽略せらるゝの故に此の一行を慳むか。本文に云はく「師子は少兎を蔑らず大象を畏れず」等云云。若し又万一他国の兵、此の国を襲ふ事出来せば、知りて奏せざるの失、偏に貴辺に懸るべし。仏法を学ぶの法は身命を捨て国恩を報ぜんが為なり。全く自身の為に非ず。本文に云はく「雨を見て竜を知り蓮を見て池を知る」等云云。災難急を見る故に度々之を驚かす。用ひざるに而も之を諌む。強