問注得意抄 (与三子書) 文永 六年 五月 九日 四八歳
今日召し合はせ御問注の由承り候。各々御所念の如くならば、三千年に一度花さき菓なる優曇華に値へるの身か。西王母の薗の桃九千年に三度之を得るは東方朔が心か。一期の幸ひ何事か之に如かん。御成敗の甲乙は且く之を置く。前立ちて欝念を開発せんか。但し兼日御存知有りと雖も、駿馬にも鞭うつの理之有り。今日の御出仕公庭に望みての後は設ひ知音たりと雖も、傍輩に向かひて雑言を止めらるべし。両方召し合はせの時、御奉行人、訴陳の状之を読むの剋み、何事に付けても御奉行人御尋ね無からんの外は一言をも出だすべからざるか。設ひ敵人等悪口を吐くと雖も、各々当身の事一・二度までは聞かざるが如くすべし。三度に及ぶの時、顔貌を変ぜず、麁言を出ださず、軟語を以て申すべし。 各々は一処の同輩なり。私に於ては全く違恨無きの由之を申さるべきか。又御供の雑人等に能く能く禁止を加へ、喧嘩を出だすべからざるか。是くの如きの事書札に尽くし難し、心を以て御斟酌有るべきか。 此等の嬌言を出だす事恐れを存ずと雖も、仏経と行者と檀那と三事相応して一事を成ぜんが為に愚言を出だす処なり。恐々謹言。 五月九日 日 蓮 花押 三人御中