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金色の師子と袈裟の功徳

仏教説話

金色の師子と袈裟の功徳

阿難は釈尊からこのように聞いた。釈尊が一時、王舎城の耆闍崛山中においでになった時のことである。

提婆達多は常に悪心を懐き、釈尊を殺害して自ら仏におさまりたいと思っていた。また、阿闍世太子には「父を害して王位につけ」とそそのかし、新仏・新王が天下を治めることも快いであろうと教えていた。王子は提婆の言葉を信用して父を殺し、自ら王となった。

この時から人々は悪心を懐き、僧を憎み、見たくないと思うようになった。沙門達が王舎城に入り、乞食(こつじき)をすると人々は怒り、声もかけなくなって、僧達は空鉢のまま住坊に帰ることが多くなった。

阿難がそのことを釈尊に告げると、釈尊は、

「もし人々が法衣を着る僧に悪心を起こせば過去・未来・現在の諸仏、辟支仏、阿羅漢に対しても悪心をもったことになり、無量の罪業と果報を負うことになろう。

なぜなら法衣は、すべて三世の賢聖の標式だからだ。鬚髪を剃除し、法衣を着る僧は一切の諸苦を解脱し、無漏の智を得て人々を救済するであろう。

したがって、人々が強く信心を起こし、僧を尊敬すれば功徳は無量である。私が仏となれたのも、過去に深く信心を起こし、僧を尊敬したからである」

と述べた。

そして、釈尊は次のように譬えを説いた。無量阿僧祇劫の昔、閻浮提に提毘という大国王がいて、四万八千の諸国を統治していた。その時代はまだ仏教がなかった。山林中に一人の辟支仏がいて、坐禅し、行道し、飛騰し、変化(へんげ)して自らのもつ福で人々を済度していた。

時に、同じ山林中に一頭の師子がいて、他の野獣は皆、親付していた。師子の名はダカラビと言い、身は金色で光り輝いていた。食物は肉を食せず、果や草を摂(と)っていたのでけっして動物を害さなかった。

この時、頭を剃り、法衣を著(つ)け、弓箭(ゆみや)を衣の内に隠し持った猟師が山中を行くと、師子を発見し歓喜した。「これは嬉しい、殺して皮を剥ぎ、王に献上すれば貧乏からおさらばだ」。

その時、師子は、たまたま眠っていたので猟師は毒箭(どくや)をもってこれを射った。師子は驚いて目を醒し、とっさに猟師を殺害しようと突進したが、猟師が法衣を著けているのを見て思い止まり、「この人は間もなく解脱を得て多くの苦厄(くやく)から離れるだろう。なぜなら、法衣は過去・未来・現在の聖人の標相だからだ。

もし私がこの人を害すれば、悪心を三世の諸賢聖に向けたことになる」と思惟(しゆい)し、毒と箭の傷によって間もなく命を断(た)った。

最期に、

「ヤララ、パシャサ、シャカ」

と言うと、天地は大きく震動し、雲もなく雨が降った。諸天が驚いて天眼をもって地上を見ると、猟師に菩薩の師子が殺された所であった。諸天は花を降らして屍(しかばね)を供養した。

猟師は師子の皮を剥ぎ、国王・提毘の求めに応じて皮を献じた。それを受け取った王は、

「経書によれば、畜獣の身が金色であるのは菩薩大士の証拠である。今、なんで、そなたに賞を与えられようか、もし与えれば私も殺害に荷担したことになる」

と言って断った。

けれども、猟師は貧しく哀れみを乞(こ)うたので、王は僅かの財を与え、師子が死する時の様子を問うた。猟師が師子の死際(しにぎわ)に、口に八字を説き、奇瑞のあったことを述べると、王は悲喜こもごもとし、信を深めた。そして国中から智人と言われる人を集め、八字の義を解かせたが、誰一人、知る者はいなかった。

けれども、林中にいたシャマという聡明な仙人が解説した。「ヤララとは頭を剃り、衣を著け、生死の解脱を得ることである。パシャサとは頭を剃り、衣を著ける者、皆、賢聖の相で涅槃に近いことをいう。シャカとは頭を剃り、衣を著ける者、一切の諸天、世人から尊敬される」。

仙人の解説を聞いて提毘は歓喜し、八万四千の小王を-処(ひとところ)に招いていて七宝の高車を作り、師子の皮を敬戴して香を焚(た)き、花を散じて供養した。人々は、この善心より天に生まれることができた。

師子とは釈尊であり、国王は弥勒菩薩であり、仙人は舎利弗であり、猟師とは今の提婆達多である。

これは『賢愚経』に説かれている。

日寛上人は、これを念仏批判に当て、「師子とは釈尊、毒箭とは礼拝雑行の言。師子とは法華経、毒箭とは捨閉閣抛の言。師子とは衆生の仏性、毒箭とは法然の念仏である。当流の信者は孝行の子である。この故に袈裟を著する僧を謗ずれば、仏を誹謗することになる」

と仰せである。

(歴代法主全書八巻)

(高橋粛道)

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