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現世安穏・後生善処(げんぜあんのんごしょうぜんしょ)

教学用語

現世安穏・後生善処

現(げん)世(ぜ)安穏(あんのん)・後(ご)生(しょう)善処(ぜんしょ)

現世安穏・後生善処の出処と意味

「現世安穏・後生善処」とは、法華経の『薬草(やくそう)喩(ゆ)品(ほん)第五』の中に説かれる句です。

『薬草喩品』では、

「是(こ)の諸(もろもろ)の衆生、是の法を聞き已(おわ)って現世安穏にして後に善処に生じ、道を以(もつ)て楽を受け、亦(また)法を聞くことを得」

(法華経 217頁)

と説かれ、法華経を聴聞し、信受することにより、現世は安穏に暮らすことができ、後生は善処に生まれることができると説かれています。

これについて天台大師は、

「若(も)し人天法を聞き戒を持し、福徳身を扶(たす)け、鬼龍犯さざるは、即(すなわ)ち是れ現世安穏なり。或は天より還って天に生じ、人より還って人に生じ、或は天人互いに生ずれば、即ち是れ後生善処なり」(法華文句記会本中 410頁)

と、人天の衆生が、法華経の聞法信受(もんぽうしんじゅ)の功徳によって、障(しょう)碍(げ)から離れることを「現世安穏」、また人天として磐石(ばんじゃく)な生を受けることを「後生善処」であると釈しています。

三類(さんるい)の強敵(ごうてき)の難

さて、宗祖日蓮大聖人の御在世には、伊豆配流や小松原法難など、大聖人と門下の僧俗に三類の強敵による様々な難が起こりました。

当時の僧俗の中には、「現世安穏・後生善処」と説かれる法華経の文と違うのではないかと、疑いを生じて退転(たいてん)してしまう人々がいました。しかし、末法(まっぽう)に御本尊を信仰し、折伏(しゃくぶく)する者に三類の強敵が起こるのは当然のことであり、むしろそれは大聖人の仏法が正法であることを証明していることになるのです。

大聖人は『開目抄』に、

「我並びに我が弟子、諸難ありとも疑ふ心なくば、自然(じねん)に仏界にいたるべし。天の加護なき事を疑はざれ。現世の安穏ならざる事をなげかざれ」(御書 574頁)

と、三類の強敵等による諸難が起ころうとも、疑うことなく正法への信仰を続けるよう戒められています。退転してしまった人々は、これらの正法信仰の心構えを、肝心な時に忘れてしまった拙(つたな)き者というべきです。

私たちは、

「あひかまへて御信心を出だし此の御本尊に祈念せしめ給へ。何事か成就せざるべき(中略)『現世安穏、後生善処』疑ひなからん」(同 685頁)

と仰せられるように、たとえ魔の用(はたら)きが起ころうとも、御本尊を信じて唱題していくところに、「現世安穏・後生善処」と仰せられる現当(げんとう)二世(にせ)の功徳があると拝することが大切です。

御書に拝される意義

この「現世安穏・後生善処」の功徳について、大聖人の御書には、正法信仰の功徳により世間に通達する智慧を得て、しかも難から守られるなどの意義が拝されます。

まず、世間に通達する意味については、

「天晴れぬれば地明らかなり、法華を識る者は世法を得(う)べきか」(同 662頁)

と大聖人が仰せられるように、御本尊を信じ、信心修行に励むならば、あたかも天が晴れていると万物の一切がよく見えるように、あらゆる世法の物事に正しく対処していくことができる功徳が具(そな)わり、「現世安穏・後生善処」の筋道が顕れるのです。

次に、正法信仰の功徳により難から守られる意味については『新尼御前御返事』に、

「末法の始めに謗法の法師一閻(いちえん)浮(ぶ)提(だい)に充満して、諸天いかりをなし、彗星(すいせい)は一天にわたらせ、大地は大波のごとくをどらむ(中略)諸人皆死して無間地獄に堕つること雨のごとくしげからん時、此の五字の大曼(まん)荼羅(だら)を身に帯し心に存ぜば、諸王は国を扶(たす)け万民は難をのがれん。乃至後生の大火炎を脱(のが)るべしと仏記しをかせ給ひぬ」(同 764頁)

と仰せられるように、謗法が国土に充満しているために、諸天善神が怒りをなして起こす天地の災難であっても、信心修行に励む者には難を逃れる功徳が具わるのです。

かつての阪神・淡路大震災や、昨年のスマトラ沖大地震による大津波の際も、多くの人命が失われるなか、日蓮正宗の信仰者に一人の物故者もいなかったことは、まさしく正法信仰による「現世安穏・後生善処」の功徳というほかはありません。

さらに一歩進めん

さらに一歩進めて御書を拝すれば、『四条金吾殿御返事』に、

「一切衆生、南無妙法蓮華経と唱ふるより外の遊楽(ゆうらく)なきなり。(中略)遊楽とは我等が色心(しきしん)依(え)正(しょう)ともに一念三千(いちねんさんぜん)自(じ)受用身(じゅゆうしん)の仏にあらずや。法華経を持ち奉るより外に遊楽はなし。現(げん)世(ぜ)安穏(あんのん)・後(ご)生(しょう)善処(ぜんしょ)とは是なり」(同 991頁)

と仰せられるように、私たちが御本尊の前に座り題目を唱えるとき、私たちの凡身はただちに本仏本法の法界に境(きょう)智(ち)冥(みょう)合(ごう)して即身成仏(そくしんじょうぶつ)を遂げるのですから、この御本尊への信心口唱それ自体に「現世安穏・後生善処」の絶対境界が顕れていることを確信すべきです。

故に『最蓮房御返事』に、

「法華経の行者は信心に退転無く身に詐(さ)親(しん)無く、一切法華経に其の身を任せて金言の如く修行せば、慥(たし)かに後生は申すに及ばず、今生も息災延命にして勝妙の大果報を得、広宣流布の大願をも成就すべきなり」(同 642頁)

と仰せられるように、一切を御本尊にお任せして、日夜、御金言のごとく自行化他の修行に励むことこそ最も大切であり、そこに現当二世にわたる磐石な境界を築く、「現世安穏・後生善処」の功徳が顕れるのです。

さあ、三年後に迫った「『立正安国論』正義顕揚七百五十年」の大佳節に向けて、いよいよ励んでまいりましょう。

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