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法華経について ㉜

法華経について(全34)
32大白法 平成28年11月1日刊(第944号)より転載

 
『妙荘厳王本事品第二十七』

 初 め に
 今回は、『妙みょう荘そう厳ごん王のう本ほん事じ品ほん第二十七』です。
 前回の『陀だ羅ら尼に品』では、悪世末法において、法華経を弘める行者を守護するための、薬王菩薩をはじめとする諸菩薩や諸天善神、そして十羅刹女・鬼子母神等の陀羅尼(力のある言葉)が説かれたことを学びました。
 末法における陀羅尼は、文底下種の南無妙法蓮華経のことであり、法華経の文上で説かれる陀羅尼の呪文を唱えたり鬼子母神等を祀まつったりすることは、かえって謗法を犯すことになり、守護を受けるどころか罪ざい業ごうを積むことになるということも学びました。
 正直に南無妙法蓮華経の御本尊様を受持信行し、この妙法を弘めることによってのみ、『陀羅尼品』に説かれる菩薩や諸天善神からの真の守護かあるということです。
今回の『妙荘厳王本事品』は、妙荘厳王という王が、浄じょう徳とくという后きさきと浄じょう蔵ぞう・浄じょう眼げんという二人の子供によって仏道に導かれる話です。誓せい願がん乗じょう々じょうと言って、大願を発おこすことにより、一仏乗の妙法という乗り物に乗り、有う縁えんの人々を妙法に導いていくことが説かれます。
 
 妙荘厳王を仏のもとへ導く
 遥はるか遠い昔、喜き見けんという時代の、光こう明みょう荘厳という国に、雲うん雷らい音おん宿しゅく王おう華け智ち仏ぶつという仏がおり、そこに妙みょう荘そう厳ごん王のうという王がいました。夫人の名を浄徳と言い、また浄蔵・浄眼という二人の子供がいました。この二人の息子は、大乗の教えを学び、六ろく波は羅ら蜜みつなどの菩薩としての行をことごとく修おさめ、様々な種類の三さん昧まい(精神統一の修行)に通つう達だつしていました。
 ある時、雲雷音宿王華智仏は、妙荘厳王をはじめ多くの人々を仏道に教導するために法華経を説かれました。そこで浄蔵・浄眼は、母である浄徳夫人に、共に仏のもとへ参さん詣けいして法華経を聴聞することを勧すすめました。
 しかし、浄徳夫人は、
「あなた方の父である妙荘厳王は、外げ道どうを信じて、深くバラモン教に執しゅう着じゃくしています。あなた方二人で一緒に父上の所へ行って、仏のもとへお連れできるように説得しなさい」
と応えました。
 すると浄蔵・浄眼の二子は、
「私たちは仏教徒なのに、こんな邪じゃ見けんの家に生まれてしまった」
と言って嘆なげくので、浄徳夫人は、
「本当に父上のことが心配であるならば、父上の前で神じん変ぺん(神じん通づう力りきによる不思議な力)を現じてみなさい。それを見たなら、きっと心が清らかになり、私たちが仏のもとへ行くことを許してくださることでしょう」
と述べました。
 そこで二人の子は父王のもとへ行って、種々の神変を現じました。まず、空中高く上り、その空中で歩き止まり座り臥ふし、また体の上下から水や火を出し、あるいは虚こ空くうに満ちあふれるほどの体を現じ、虚空から姿を消して地上に現われ、大地を水中のように潜もぐり、水上を大地のように歩きました。このような様々な神変を現じたことによって、父王の心は清らかになり、仏法に対し信じ理解するようになりました。
 時に父王は、子供たちの神通力に心から大いに喜んで、二子の師である雲雷音宿王華智仏のもとへ行くことを決意しました。
 
 値い難き仏法
 そこで、浄蔵・浄眼は母のもとへ行って、父王が仏法を信ずるに至ったことを報告すると共に、仏に値あい難い由縁を述べて、自らの出家を願いました。これを聞いた母は二子の出家を許しました。
 そして浄蔵・浄眼は、仏に値い難い因縁を、
「仏には値いたてまつること得え難し。優う曇どん波ば羅ら華けの如く、又、一いち眼げんの亀かめの浮うき木ぎの孔あなに値えるが如し。而しかるに我等、宿しゅく福ふく深じん厚こうにして、仏法に生れ値えり」(法華経 五八八㌻)
と三千年に一度咲くと言われる優曇華の花を見るよりも、一眼の亀が大海の浮木の穴に値うよりも、仏に値い奉り、法華経を聴聞することは難しいと、譬たとえを交まじえながら説かれたのです。
 この時、妙荘厳王の宮きゅう殿でんの大奥にいた八万四千の女性は皆法華経を信受し、浄眼菩薩は法華三昧を久しく過去より通達し、浄蔵菩薩は無量百千万億劫という遥か昔から、離り諸しょ悪あく趣しゅ三昧(諸の悪趣を離れさせる三昧)に達し、浄徳夫人は諸しょ仏ぶつ集しゅう三昧(諸仏の功徳を集めた三昧)を得て諸仏の奥深い教えの蔵ぞうを知ることができました。二人の子供は、このように方便の力によって父を教きょう化けし、仏道に導いたのです。
 そして、妙荘厳王は多くの臣下と共に、浄徳夫人は多くの女にょ官かんと共に、二人の子供は多くの民衆と共に、同時に仏のもとに参詣し、仏の足下を礼らい拝はいして座ると、仏は妙荘厳王のために法を説いて示し、教え、利り益やくさせ、大いに喜ばせました。その時、王と夫人が、高価な真しん珠じゅの首飾かざりを外して仏に供養したところ、四本柱の宝の台となり、その上に仏が座られました。仏の体から大光明が放たれると、妙荘厳王は、仏の身はたいへんに有り難く、殊しゅ勝しょうな姿であることを心深く思ったのです。そして、仏は聴衆に、
「汝なんじらは、妙荘厳王が我が前に立って合がっ掌しょうしている姿を見たか。妙荘厳王は、私の弟子となり、将来、仏道を成じて娑しゃ羅ら樹じゅ王という名の仏となり、その国土は大だい光こうと称しょうされるであろう」
と説かれました。
 すると、王は直ちに位を弟に譲ゆずり、夫人と二人の子供とお供の者共々に出家し、八万四千年の間、常に努力精進して法華経を修行し、その後に一いっ切さい浄じょう功く徳どく荘しょう厳ごん三ざん昧まい(あらゆる清らかな功徳で飾られた三昧)を得ました。
 
 仏になる道は善知識に過ぎず
 時に、王は虚空に昇り、仏の前に止まって、次のように申し上げました。
「世せ尊そんよ、この二人の子は、既すでに仏事を尽つくし、神通力による奇き跡せきによって、我が邪心を改めさせ、仏法を信じさせ、このように仏にお目にかかれるようにしてくれました。二人の子供は私の善知識(教えの師)です。前世以来の功徳善根を起こし、私を利益するために子供として生まれてきたのです」
 すると、雲雷音宿王華智仏が次のように妙荘厳王に告つげました。
「まことにその通りである。もし清しょう浄じょうな男女は、かつて善根を種うえていた故ゆえに、世世に善知識に値うことができる。その善知識は、よく仏事を尽くし、教え導いて利益を与え、仏の悟さとりへ至らせる。大王よ、善知識は大きな因縁のもとにあるから、よく人々を仏のもとに導いて、菩ぼ提だい心しんを起こさせる。二人の子供は、既にかつて六十五百千万億那由他恒ごう河が沙しゃもの諸仏を供養し、お仕えして法華経を受持信行し、邪見の衆生を愍あわれんで正法へ導いたのである」
妙荘厳王は、空中から地上に下おりて、
「如来は甚はなはだ希まれなる存在であります。功徳と智慧を具そなえるが故に、仏の姿も荘厳にして、如来の法も不可思議な功徳を具え、成就されております。その教えや戒かい律りつはまた安あん穏のんで快こころよいものです。私は、本日より二度と誤った考えや心を起こさないことを誓います」
と決意を披瀝し、仏を礼拝して帰ったとの話です。
 釈尊がこのように説かれた後、人々に告げました。
「汝らは、この話をどう思うか。妙荘厳王とは、今の華徳菩薩その人である。その浄徳夫人は今の光こう照しょう荘しょう厳ごん相そう菩薩、そして浄蔵・浄眼の二子は今の薬王・薬上菩薩である。薬王・薬上菩薩は、このように無数の仏のもとで諸の大功徳を成就してきたのであるから、汝らはこの二菩薩を供養礼拝すべきであろう」
以上で、『妙荘厳王本事品』が終わります。
 天台大師の『法華文句』において、『妙荘厳王本事品』についての過去世における仏道の因縁が示されます。
 略述すると、ある所に四人の比丘がおり、その中の一人が、自分一人が托たく鉢はつをして他の三人を養い、仏道修行に専念させると発ほつ願がんしました。そして月日を重ね、托鉢の行をしていたときに、威い儀ぎ堂どう々どうとした王の行列に出合い、そのような果報を得られるよう願いました。それまでの功徳によって托鉢僧は亡くなった後、大王と生まれ変わりました。しかし、仏道を行じていないため、次第に功徳は減じて、悪道に堕だすることになりました。
 他の三人は、この大王となった者が過去に托鉢をして養ってくれたお陰かげで仏道修行に専念し法を得ることができた因縁から、この大王を悪道から救おうと、一人は夫人となり、二人は王子となって仏道に導くことを発願したのです。
 この大王こそ、妙荘厳王です。浄徳夫人、浄蔵・浄眼の二人の王子となった三人は、この王を成仏に導くことになるのです。
 浄蔵・浄眼の二人の子供が妙法の大願を立てて、外道の邪見に陥おちいった父の妙荘厳王を仏道へ導いたことは、最高の親孝行です。また夫人である浄徳夫人も過去世の因縁により、夫である妙荘厳王を救おうとしました。これを誓願乗々と言って、仏道の願力をもって一仏乗の妙法に乗り、有縁の人々を妙法に導く尊い姿として説かれているわけです。
 大聖人様は『三さん三さん蔵ぞう祈き雨うの事こと』に、
「仏になるみちは善知識にはす過ぎず。わがち智ゑ慧なににかせん。たゞあつ熱きつめ冷たきばかりの智慧だにも候ならば、善知識たひ大せち切なり」(御書 八七三㌻)
と仰せです。
 私たちも浄蔵・浄眼の二子のように折伏の誓願を立てて、邪義邪宗に惑まどわされている多くの人たちを、御本仏日蓮大聖人様の下種仏法のもとへ導く善知識となっていきましょう。

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