日如上人猊下お言葉
本日は、皆様には諸事御繁忙のところ、信心強盛に広布唱題会に参加され、まことに御苦労さまでございます。
さて、最近の新型コロナウイルス感染症やロシアによるウクライナ侵攻など、騒然とし国内外の状況を見る時、今こそ私どもは、改めて『立正安国論』の御聖意を拝し、いよいよ妙法広布に向けて全力を傾注していかなければならないと痛感するものであります。
既に、皆様も御承知の通り『立正安国論』は、今を去る七百六十三年前、文応元(二二六〇)年七月十六日、宗祖日蓮大聖人御年三十九歳の時、当時、寺社奉行であった宿屋左衛門入道を通じて、時の最高権力者・北条時頼に提出された国主への諌暁書であります。
すなわち『立正安国論』は、日本国の上下万民が謗法の重科によって、今生には天変地夭・飢饉・疫膚をはじめ、自界叛逆難・他国侵逼難など、様々な重苦に責められ、 また、未来には無間大城に堕ちて、阿鼻の炎にむせぶことを大人が悲嘆せられ、一往は和光同して仏の弟子として、再在は末法の御本仏としての大慈大悲をもって、北条時頼ならびに万民をお諌めあそばされたところの折伏諌暁書であります。
今、その『立正安国論』の大要を拝しますと、初めに、正嘉元(一二五七)年八月二十三日の大地震をはじめ、近年より近日に至まで頻発する天変地夭・飢饉・疫等の惨憺たる状況を見て、その原因は世の中の人々が正法に背き、悪法を信じていることにより、国土万民を守護すべきところの諸天善神が去って、悪魔・魔神が便りを得て住み着いているためであるとし、金光明経、大集経等を引かれて、正法を信ぜず、謗法を犯すことによって、三災七難等の災難が起こると、数多の証を挙げて、その理由を述べられております。 これら不幸と混乱と苦悩を招いている原因は、ひとえに法然念仏にあると断ぜられ、この一凶を断ち、謗法を対治して正善の妙法を立つる時、国中に並び起こるところの三災七難等の災難は消え失せ、積み重なる国家の危機も消滅して、安寧にして盤石なる仏国土が出現すると仰せられています。しかし、もし正法に帰依しなければ、七難のうち、いまだ起きていない自界叛逆難と他国侵逼難の二難が競い起こると予言され、速やかに「実乗の一善」すなわち、三大秘法の南無妙法蓮華経に帰依
するよう結ばれているのであります。
事実この二つの予言はのちに北条時輔の乱、蒙古来襲となって現れたのであります。
また『立正安国論』の対告衆は、北条時頼 であり、予言の大要は自界叛逆難・他国侵逼難の二難でありますが、実には一切衆生に与えら」れた諌言書であります。
さらにまた、
「如かず彼の万祈を修せんよりは此の一凶を禁ぜんには」(御書 二四一)
と仰せのように、一往付文の辺は専ら法然の謗法を破折しておりますが、再往元意の辺は、広く諸宗の謗法を破折しておられるのであります。
したがって、念仏破折が主であり、権実相対の上から破折されていることになりますが、「立正」の意義から拝するならば、一重立ち入って、天台過時の迹を破し、法華本門を立てて正とする故に本迹相対となります。さらにまた、一歩深く立ち入って拝せば、 久遠下種の正法、すなわち末法弘通の三大秘法の妙法蓮華経を立てて、本果脱益の釈尊の法華経を破するが故 に種脱相対となるのであります。つまり「立正」の「正」とは、下種の本尊にして三大秘法がその正体であります。
また「安国」の両字について、総本山第二十六世日寛上人は、
「文は唯日本及び現在に在り、意は閻浮及び未来に通ずべし」(御書文段 五ページ)
と御指南であります。
すなわち国とは一往は日本国をさすも、再往は全世界、一閻浮提を指しているのであります。
さらにまた「立正」の両字につきましては、
「立正の両字は三箇の秘法を含むなり」(同六 )
と仰せであります。
すなわち「立正」 「正を立てる」とは、末法万年の闇を照らし、弘通するところの本門の本尊と戒壇と目の三大秘法を立つることであり、国土安穏のためには、この本門の本尊と戒壇と題目の三大秘法の正法を立つることこそ、最も肝要であると仰せられているのであります。
されば、私どもは混沌とした今日の惨状を見る時、今こそ、講中一緒異体同心して『立正安国論』の御聖意を拝し、全力を傾注して折伏を行じ、もって妙法広布に挺身していくことがいかに大事なことであるかを銘記していただきたいと思います。
そして、一人ひとりがしっかりと題目を唱え、身軽法重・死弘法の御聖訓のままに、決然として折伏に立ち上がり、なお一層の精進をもって自行化他の信心に励まれますよう心からお祈りし、本日の挨拶といたします。
(大白法令和5年10月16日号より転載)