今日まで、正宗の法華經唱へ奉り候へども、藩の取締ま
り堅固なれば、思ふままに信心致し難く、大石寺にまか
り出る事なかなか至難に相成り候へば、ただひたすら襖の
影より心ひそかに題目を唱へ居り候。
何しか当家にも大声高らかに題目のひびき渡る時を
祈り、正宗の経文を唱へらせたく、其の日を旭日の昇るが
如くに心待ち居り候。
世の移り変りは弓より放つ矢よりも早しと申し候へど
も、この信心にて、それを教える事も出来候。河川が逆
流し、夏雷が地下より吹上げ候へども信心の心ゆるむ
事、固く固くいましめおき候。
家が栄えるも滅ぶるも信心の強弱にて候えば、この経
文題目、大聖人の申される通り行じ候はば、さらさら滅
ぶる事あるべからず、これ疑うことなし。
経文を父として題目を母として一日も早く正宗の遍
ることを願い申し候なり。
弘化三年十二月十五日
久保専朴 病床にて
くぼせんぼく 加賀藩の人 遍る(ひろまル)
163年まえ今日はH20ねん